最近聴いたアニソンで二曲。「呪術廻戦」のED曲と、「葬送のフリーレン」のOP曲。
羊文学「more than words」
構成が面白い。一見して、Aメロ、Bメロ、サビというような一般的な構成のようにも見えるが、より本質的には、ループするベースに音を積み重ねていく、ループ音楽としての構成を持った作品であるところが大きな特徴になっている。
一般にループはエレクトロニックミュージックの手法で、ループする音のパターンはサンプラーやDAWを使って装置的に生じさせて、そこに音を重ねていくもので、バンドの楽曲としてこのような構成をとることは珍しいのではないか。
それから、ヴォーカルの歌い方に、拍を打つ力、ビートを作る力が際立ってあるのか、また作曲手法の面から言っても、ヴォーカルの音とドラムの音との重なり具合が秀逸。
具体的に見てみるならば冒頭部分、ヴォーカルの旋律がキックと重なる時の音は、おおむねFかD♭になっている。キックのタイミングに特定して同音が反復されることで、拍を打つ感覚が強調されている。このようにヴォーカルもパーカッション的に扱われている。
ヴォーカルの旋律のリズムは、曲の進むにしたがって、柔軟に展開されていき、曲全体として、ヴォーカルのリズムとドラムと合わさって一つのリズム隊であるような特徴が感じられる。
ヴォーカルとドラムの同時的な音の重なりという点で言えば、これはミックスの段階の音作り、たとえばコンプレッサーの使い方などに左右される要素でもあるかもしれないが、上掲の譜例のような手法の見られるように、これはこのバンドの作風や音楽性なのだろう。
上記に関連して、以前視聴した作品を聴きなおしてみた。
冒頭から、旋律のリズムはパーカッションのリズムと親和性があって、共通する作風が感じ取れる。
YOASOBI「勇者」
基本的に強拍を打たないというスタンスのリズムを持った旋律のフレーズが冒頭から繰り返される。
また、この冒頭の旋律も含め、楽曲全体で扱われる旋律の多くは、「16分音符の連鎖→シンコペーション」という設計、この設計を抽象クラスと見て、そこから派生した(それを継承した)具象クラスの旋律群が全体に散りばめられ、構成されているという見方もできる(参照:オブジェクト指向と作曲)。即ち、旋律のかたちに統一感のある楽曲。
その中で、サビの部分の8分音符の連鎖によって1オクターブと短6度上行していく順次進行による強いフレーズ(サビ直前の短九度上行跳躍はこれを準備しているとも見ることができる)は、冒頭の旋律の形(強拍を打たない軽さ、弱さ)と、もっともよく対照していると言える。
もっともこの順次上行する旋律は、その前の部分、より細かい音価で動きをもって順次下降していく部分のリズムの面白さからのつながりとして認識されるところのものでもある。その意味では、この細かい音価で下降していく部分は、息の長い一つのフレーズとして見ると、サビ全体のリズムの流れはわかりやすくなる。
参考までに、シンコペーションと非シンコペーションの対照というデザイン手法は、昔の作品にもある。以下はモーツァルトの例で、四小節間シンプルにシンコペーションばかり聞かせたのち、強拍を打つ主題に入る。
一般的に言って、このシンコペーションと非シンコペーションとの対照は明確なコントラストではあるが、それらは半拍あるいは四分の一の拍の、いずれにしろ短い音価一つ分ずれている、スライドしているだけでもあって、小さな差異によって大きなコントラストを生む、そのような緊張関係のある対照とも言える。
即ち、ただちょっとずれているだけのものが、うまくはまることで大きな力を発揮するというように解釈することもできるだろうか。