最近聴いたアニソン その6

最近聴いたアニソンで、「推しの子」第2期OP曲。

GEMN「ファタール」

GEMN「ファタール」 作詞・作曲:Tatsuya Kitani 編曲:Giga

前期のOP曲「アイドル」の要素を継承している面が見受けられる。

  • 冒頭のラップ
  • 多様な旋律を含む、やや複雑な構成
  • 小単位のフレーズの繰り返しの多用

多様な旋律が展開される構成に対し、小単位のフレーズの繰り返しを多用することで、旋律を耳に定着させやすくし、バランスを取る。異なる旋律が次々に展開されても、耳に残りやすくするためには有効と思われる。これについては「アイドル」について書いた文章でも触れた。

小単位のフレーズの繰り返しの例 – GEMN「ファタール」 より

ラップは一般に、音程よりも言葉の抑揚がまさる、曲のキーからある程度解放された歌唱スタイルだが、この曲の冒頭のラップは、明確に音程をとるスタイルになっている。

ラップに明確な音程がついているというのは、必ずしも珍しいことではないかもしれないが、この音程のついたラップというものを一つの音楽的現象として捉えるなら、それは何か宗教的詠唱といったものに近くなっていっているような感じもする。

構成について

ショートver.全体の構成は、以下のようになっている。

a(ラップ)(8)-b(タイトル提示)(8)-a'(4)-b'(16)-サビ1(8)-サビ2(8)-終止(4)

括弧内の数字は小節数。bとb’は、共通する音楽的モチーフによる括り。この区分では、b’が特に長くなる。一般的なAメロBメロのカテゴリーで考えるなら、b’がBメロのセクションに当てはまり、残りのaからa’までをAメロのセクションとして当てはめることになるだろう。これについてはまた後述する。

映像でタイトルが提示される部分の旋律からは、ややこじつけかもしれないが、歌詞に「運命」の語がいくらかあることや、曲のタイトルがfatal(致命的、運命などの意)であることなどから、ベートーヴェンの運命動機(これについてはオブジェクト指向と作曲で少し触れた)が連想される。

映像でタイトルが提示されるシーンの旋律 – GEMN「ファタール」 より

冒頭にこのような、サビでもない、アクセントのある提示的な、主要命題的な旋律が置かれることは、歌の構成としては珍しいのではないだろうか。この旋律には内容的に、(サビに向かって盛り上がっていく前の段階としての)Aメロらしさはない。むしろクラシック音楽におけるソナタ形式の第一主題のように冒頭に力強く提示される旋律。この旋律のセクションが、この楽曲を特徴づける一つの大きな要素となっている。

bとb’に共通する音楽的モチーフとして、完全四度と同音反復を持つ音楽的部品があげられる。

b’はbとは異なる旋律であるが、同じ音楽的部品から展開される。

b’の旋律 – GEMN「ファタール」 より

サビの旋律について

サビ1で新たな旋律が提示されるが、これはb’の旋律に基づいていると見ることができる。

サビ1の旋律 – GEMN「ファタール」 より

サビ1の括弧で示した部分は、b’の旋律をちょうどデータ圧縮のアルゴリズムに例えられるような方法で、繰り返し現れる要素を省略して、旋律情報を圧縮したものと捉えることができる。譜例で示す通り、同音反復および括弧で示された部分は省略される。A♮は自然音階音であるA♭に読み替える。

b’の旋律の圧縮アルゴリズム – GEMN「ファタール」 より
サビ1の旋律における圧縮音列の適用 – GEMN「ファタール」 より

ソナタ形式として、立体性のある構成について

Aメロセクション(a-b-a’)、Bメロセクション(b’)の区分で考えた場合、これはAメロBメロというよりは、クラシック音楽の例えになるが、ソナタ形式の第一主題、第二主題と考えた方がしっくりくる。

それはb’が歌謡性の高い性格的楽想で、a-b-a’の部分と対照しており、かつ両部分は、共通する音楽的部品を展開している。そのように共通する要素と対照的な要素を合わせ持つ関係となっている。何より、a-b-a’と、b’とで、歌唱スタイルの別が明確にあることが非常に良い。

サビはきびきびとしたユニゾンが第三主題的で、到達すべき楽想としてのまとまりを楽曲全体として形成してる。

Aメロセクション(第一主題)とBメロセクション(第二主題)の構造が明確で、さらにサビセクションもまた上記のごとく構造を担っている。音楽的各要素が時間軸上に並んでいるという感じではなく、楽曲全体として立体性のある構成になっていることが、この楽曲を特徴づけている。このことは、映像の構成や内容を活かしうるものではないかと思う。

映像と楽曲の構造について

アニメ作品のOPED映像において、主題歌の音楽的構成は、映像の構成や内容に大きな影響を持つのではないかと思う。これをWEB制作に例え、CSSが映像でHTMLは音楽というように考えたりすることがある。

divやpタグでおおまかに組まれた文書の構造でしかないHTMLと、OP映像においてその構造的側面が強調されうる音楽というものが、ちょっと似ているような気がしている。

音楽は音楽としての内容を持つにもかかわらず、音楽は映像の、あえて構造に特化するようなところがある。音と映像を合わせる、映像が楽曲にうまく嵌るというのは、そういうことではないかという気もする。

それゆえに楽曲の構成如何の、映像のストーリーに与える影響は大きいのではないだろうか。一般的なAメロBメロサビというような構成でも良いのだけれど、その構成は映像のための強固な土台となりうる。

逆に楽曲が、一般的なものよりもいくらか多様性のある構造を持っていたとしたら、それはまた映像のありかたに大きな影響を与えるのではないかと思う。そのような意味でこの楽曲の、いくらか複雑さはありつつ機能的でまとまりのある構成は、映像の構成にいい影響をもたらしているのではないかと思う。

最近聴いたアニソン その6

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